牛乳

カフェオレが飲みたくて珈琲を淹れた

牛乳の消費期限は3/18と書いてある

気が付かなかった

少し苦めに淹れてしまったので

そのまま飲む気にもなれずコンビニに向かう

少し雨が降っている

昨日ほど、外は眩しくない

昨日はぼんやりと

ベランダからカーテンの隙間へと降る光を

暗くなるまで眺めていた

 

カフェオレを飲んで

これを書きながら

夕方のバイトのことを考えている

生きている、気がした

真似事

暮らしがしたい

 

休日は昼頃に起き

少しいい、貰い物のコーヒーを淹れる

隣で眠る誰かを起こし

狭いキッチンでお昼ご飯を作る

きっと、何かいい香りがしていて

美味しいね、と呟く

 

それから、

 

それから?

 

洗い物をしよう

あ、と声が漏れて

左手から皿が滑り落ちる

新品みたいに真っ白で

掴めない

シンクに転げたそれを

ただ見つめている

揺らめく

身体が 言葉が

纏わりついてくる

離して

腕が、痛い

痛くて

そうだった

わかってる

結局、者でありつづける


これすらも、この言葉すらも

この力をかたどってしまう

 

風を描いて

波を掬って

とどめようとすればするほど

形にならないものたちが

歪んでいってしまう

ただ、揺らめくままに

自分になってほしかった

嚥下をしてしまいたかった

 

知らない何かに成っていく

何も追いつけないから

君は変わらないで、

まだ
かたどられていて

少しの恐怖と、ときめきを

螺旋階段を駆け下りた

なにか黒い闇が迫ってきていて

逃げなければいけなかった

階段から、みんなは2人手を繋いで駆け下りて

そのまま飛び出す

大きな箱から溢れている

骸骨の山へ

 

誰とも手を繋いでいない自分は

1人で走っていた

でも何故か飛び出せはせず、

他に1人で来る人を待っていた

 

誰かが駆け下りてきて

4段ほど上で止まった

こちらに手を伸ばして

一緒に飛び込もう、と

 

階段を上がり、一緒に骸骨の山へ飛び込んだ

さっきまで生きていたはずなのに

みんなもう

腐敗が進んでいる

死ぬことを理解しながら

見知らずの人と

2人でそこへ飛び込んだ

知らずのうちに太ももを擦りむいた

その傷から身体が急速に腐敗していく

 

山積みの死体の中

誰かも分からないようになって

全に混ざって死んでいくのが嫌で

うつ伏せに飛び込んだ姿勢から

少し寝返りを打った

山から外れて仰向けになる

 

繋いだ手は離れなかった

 

このまま死ぬと分かった

いや

気がついた時には

もう死んでいて

意識だけが浮遊していた

 

身体から自由になった視点は

少し高度を上げて後ろを振り返った

今にあの闇に覆われそうな空は

紫と桃色に染まった

美しい夕焼けだった

なんだか急に心臓がきゅっとして

自分の身体へ戻った

 

視界が暗くなっていく

身体はもう動かせない

自分の重みを支える筋力が無くなって

胴が軋む音がした

痛みは無い

恐ろしくもなかった

 

死んでしまった、と改めて意識したのに

なにも恐ろしくなかった

もしかしたら恐ろしかったのだけれど

自分でも気が付かないように蓋をしていた

眠りゆく意識の中で

もう少しだけ起きていようと

これが最後の眠りになると感じながら

無理に意識を起こした

それはまだ生きていたいのではなく

紛れもなく

死ぬ時をみたい、という好奇心だった

不可知が覆るのだと、

ときめいていた

 

ボカデュオの話

『無菌室にて』
 ー presented by calmness 

◾︎ ny ver:youtu.be/f3VblSuDQq0
◾︎ 裏命ver:https://www.nicovideo.jp/watch/sm42444785

7/5にボカデュオ参加作品として投稿いたしました。聴いていただけたでしょうか?

前々から誰かと音楽を作ってみたいという願望があり、今回の楽曲はボーカルのnyさんと打ち合わせをしつつどんな歌詞にしようか決めていきました。SENEの楽曲制作に本当に真摯に向き合ってくださいました…!

せっかくなので楽曲について、補足のような書き散らしを残しておきます。

 

 

 

『無菌室にて』

誰の中にもいるようなナイーブな人格

守らなければいけない

簡単に壊れてしまう、大事な心だから

 

世界はどれほど冷たいだろうか?

日々社会生活で摩耗しているが

誇大な敵

嘘では無い、ただ

怯えすぎてしまっている

あるいは

直視したくはない自己正当化

 

ただ少しだけ、

もう少し強くなるまで

無菌室で眠っていてね

悪を撃つ

悪を撃て

その覚悟はあるだろうか

正義をかざして

悪を撃つ

全ての悪を浮き彫りにする

その覚悟が

 

なぜ

自分の中にも

常に悪がとぐろを巻いて

いまかいまかと

光が当たるのを待っている

光の下でも決して暴かれないと

矛盾を容認するうちは

あなたには何も撃てない

 

だめだ どうしても

ただ、正しくいたい

 

 

ぬるい、

ぬるい風に誘われる

 

恐ろしくはないか

解毒

体内の毒が抜けていく感覚がある

いや、毒ではない

一度たりとも、毒ではなかった

数年間この身体を傷ませ

しかし縋っていたのだから

決して毒ではなかった

 

もはやこの身体の構成素であり

軽くなっていくような

別の人間へ成っていくような

なんとも言い難い感覚がある

 

言葉を書き続けるために

この手を紙に押さえつけた

あの鉛が消えていく

これからどこまで浮かんでいくだろうか

 

もう不安だけでは

解毒は止められない